BBANALY プロ野球データ分析

NPBのデータから、野球に関する議論や迷信を検証していくブログです。

『HRテラスを設置すると、番狂わせが起きにくくなる』という仮説とその検証

本記事の構成

書いているうちにやたら長くなってしまったので、まずはじめに本記事の構成を示します。

  1. 前提部分(①ホームランテラス設置による得点環境の変化、②本塁打の持つ性質)
  2. 前提部分から導き出した仮説
  3. 仮説の検証
  4. まとめ

野球統計に関する知識に自信のある方は、1の前提部分を飛ばして頂いても読める内容かと思います。

 

1-①ホームランテラス設置による得点環境の変化

 近年既存のフェンスよりも手前側に新たにフェンスを設置することによって、本塁打に必要な打球距離を短くし、本塁打の数を増やそうとする取り組みが流行っています。2013年から設置の楽天生命パーク(Eウイング)、2015年から設置のヤフオクドーム(ホームランテラス)、さらに今シーズンからZOZOマリンにも設置されることになっており(ホームランラグーン)、今後も増えそうな予感がします。

さて、このホームランテラス(呼称はホームランテラスに統一させてください)ですが、設置によって得点環境にどのような変化が生じているかをまずはじめに調べます。

 

(1)得点増減

ホームランテラス設置によって、当該球場で発生する得失点は増加する傾向にあるでしょう。シーズンごとの点の入りやすさを考慮するために、ホームランテラス設置前後の得点パークファクターによってそのことを確認します。パークファクターとは、球場ごとのイベントの起こりやすさを示したもので、調べたい球場と他球場でのイベントの起こりやすさの比を取ることで算出されます。

パークファクターに関してはこちらのサイトの数値を引用させていただきます。

 

ranzankeikoku.blog.fc2.com

 

ホームランテラス設置前後の得点パークファクター推移は以下のようになりました。

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ホームランテラス設置前後の得点パークファクター

どちらの球場でも、ホームランテラスの設置によって得点が入りやすくなっていることが確認できました。

 

(余談)

単年のパークファクターに関する数値のばらつき(random variation)についての分析をTango Tiger氏が行っていたので、一応貼っておきます。

tangotiger.com

 

 

(2)得失点に対する本塁打の得失点の割合増

 次に総得失点のうち、本塁打によってもたらされた得失点の割合に注目することで、本塁打によってもたらされた得失点の割合が増加していることを確認します。本来は、本塁打による打点を集計する必要がありますが、簡単のため「本塁打による得失点 = (本塁打+被本塁打)×1.4」で計算することにします。

こちらのサイトのデータを引用させていただきます。

 

baseballdata.jp

 

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本塁打によってもたらされた得失点割合の変化

 

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本塁打によってもたらされた得失点割合の変化(グラフ)

 たとえ設置前年と設置年とでチームの打撃スタイルに変化があったとしても、その考慮分を上回るほどの得失点割合の変化があります。ホームランテラスによって得失点の環境が大きく変化していることが確認できました。

 

1-②本塁打の性質

次に本塁打の性質について整理しておきます。ここでは、「本塁打を打つ(打たれる)能力」と「野球というゲームにおける本塁打の立ち位置」について述べていきたいと思います。

 

(1)本塁打を打つ(打たれる)能力

野球の指標には、一定の能力を持っていても年度ごとのばらつきが大きいもの、小さいものが存在し、それぞれの指標の数値を選手がコントロールできるのかそうではないのか、もっというと運によってどれくらい左右されるのかという議論がなされています。

詳しくは、日本のプロ野球のデータを使用して計算されている方がいらっしゃるのでご覧になってみて下さい。

 

baseballconcrete.hatenablog.jp

 

こちらの記事を読んで分かるように、「本塁打、三振、四球」は野手側から見ても投手側から見ても選手の能力を強く反映しており、安定した結果を比較的残しやすい指標、イベントということができます。

一方で、BABIP(本塁打を除いた打球のうち、安打になった打球の割合を示す)の年度間相関が低いことから分かるように、本塁打以外の安打は、本塁打と比較すると安定した結果を残しにくく、運に左右されやすい指標、イベントということができます。この事実は、ポテンヒットや野手の正面を突く痛烈なライナー等を想像すれば理解しやすいかと思います。

ホームランテラスの設置によって、本塁打による得失点割合が増加し、それに伴い本塁打以外のイベントによる得失点割合が減少したことを踏まえ、得失点を構成する要素を能力と運に分けることができるとすると、設置前に比べ設置後は、発生した得失点が能力によって決まる割合が大きくなることが予想されます

下のグラフ2枚はイメージです。

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本塁打による得失点割合の変化(イメージ)

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得失点を構成する能力と運の比率(イメージ)

 

 

(余談)

指標の信頼性に関してもっと詳しく知りたい方は、MLBのデータを使ったグラフ描画ツールがfangraphsにあったので、ご覧になってみてください。リンク先の中ほどにあります。 

blogs.fangraphs.com

 

 

(2)野球というゲームにおける本塁打の立ち位置

次に点取りゲームとしてより数理チックに野球をみたときの、本塁打の立ち位置について考えてみたいと思います。本塁打の持つ重要な性質の一つとして、「打った時点で得点が確定する」ことが挙げられます。貯まっているランナーを確実に一掃することができ、点を取るという観点からは、一切の無駄がありません。

一方、本塁打以外の攻撃側に有利とされるイベント(本塁打以外のヒット、四球等)は、必ずしも得点に結びつくわけではなく、最終的に得点に結びつかなければ、点を取るという観点からは無駄になってしまいます。

イベントの価値を「最終的に得点に結びつくか否か」で議論するならば、本塁打の「価値」に比べ、本塁打以外のイベントの「価値」は、発生時のアウトカウントやランナー等の状況に依存しやすい性質を持つといえるでしょう。「チャンスに強い能力」が様々な研究で否定されていることを踏まえると、状況に応じて打撃能力が変化することは考えづらいため、本塁打以外のイベントの「価値」は運によるばらつきが大きいことが予想されます。

 

また、このことを裏付ける別のアプローチとして、野球シミュレータによる検証があります。

 

hihrois-1104o.hatenablog.com

 

簡単に概要を説明すると、まず得点創出能力(=wOBA)が同じでありながらも、出塁が全て単打である選手Aと、出塁が全て本塁打である選手Bを用意し、選手Aのみで組んだ打線(コツコツ打線)と、選手Bのみで組んだ打線(一発攻勢打線)を作成します。

自作した野球シミュレータによってこの打線で十分な数の試合を行い、平均得点と標準偏差を求めることで、変動係数(=標準偏差÷平均得点)を導きます。変動係数とは得点がどれだけ運によって左右されるのかを表した指標で、スケールの大きさを考慮するために標準偏差を平均得点で割ることで求められます。

この結果、一発攻勢打線の方が小さい変動係数を記録し、運による得点のばらつきが小さいことが分かりました。

 

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コツコツ打線と一発攻勢打線の得点分布

 

このことから、数理的に野球を捉えた場合にも、本塁打による得失点は、そうでないイベントと比べると、得失点を安定させる効果があることが予想されます。

 

2、前提部分から導き出した仮説

 これまでの内容をまとめると、

  • ホームランテラスを設置すると、本塁打によってもたらされた得失点の割合が増加する。
  • 本塁打は安定しやすい指標・イベントで、能力が反映されやすい。
  • 本塁打は得点が確定するイベントであり、得失点が安定する。

といった感じになります。

 

このことから今回立てた仮説は、

「ホームランテラスを設置することによって、得失点は能力をより反映し、運によるばらつきが小さくなりやすくなるため、試合の勝敗に能力差が反映されやすくなる。」

というものです。

 

3、検証

今回はホームランテラス設置前後での、得失点分布の変動係数を求め、比較することによって確かめてみたいと思います。

 

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ホームランテラス設置前後での得失点変動係数変化

両球場共に得点の変動係数は小さくなりましたが、失点の変動係数は楽天生命パークではほぼ変化なし、ヤフオクドームでは大きくなっていることが分かりました。この結果、得失点の変動係数は楽天生命パークでは小さくなっており、ヤフオクドームではほとんど変化がないということが分かりました。本来は検定等を用いてこの差を統計的に説明できればベストなのですが、ちょっとハードルが高そうなのでこのくらいにとどめておきます。

得点の変動係数がともに小さくなったことについて何か特別な意味があるとすれば、ヤフオクドームでの失点の変動係数が大きくなったことについても何か特別な意味があるはずなので、今回の検証結果からホームランテラス設置によって得失点のばらつきが小さくなったことを示すのは難しいかと思います。

 

(追記1)

twitterでは既に投稿しているのですが、各チームの本拠地での1試合当たり本塁打数と得点の変動係数(ばらつきの大きさ)の相関について調べてみました。1試合当たりの本塁打数が大きいチーム(環境)であるほど、得点のばらつきが小さくなる傾向にあることが分かりました。このことは、今回立てた仮説を裏付けるような分析の1つになると思います。

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本拠地における1試合当たりチーム本塁打と得点の変動係数(NPB 2016~2018)

 

 

4、まとめ

ホームランテラスを設置することによって、当該球場での得失点のばらつきが小さくなっていることが分かりましたが、その差が統計的に有意かが説明できないため今回の検証でそのことを示すのは難しそうです。しかしながら、過去の統計や野球の構造を見るに、「本塁打によってもたらされる得失点割合の増加が、運による得失点のばらつきを減らすことにつながる」仮説は、全くの見当違いというわけではなさそうなので、引き続き良い検証方法がないか模索したいと思います。

ちなみにもしこの仮説が正しいとすると、本塁打が出やすい球場ほど「番狂わせ*1の起こりにくい球場」ということができ、元々の能力が高いチームほど、このような球場を本拠地にした方が運に左右されることなく勝ちを積み重ねられることになります。

この仮定にぴったりと当てはまる球団の一つとして、ソフトバンクが挙げられます。選手層が厚く能力が高いこと、本記事で述べたようにヤフオクドームは本塁打が最も出やすい球場の一つであること、打率よりも本塁打を重視しているような選手が多くスタメンに名を連ねており、比較的本塁打で点を取るチームであること、これらのことを踏まえるとソフトバンクヤフオクドームを本拠地にすることは、とても合理的なように思えます。多少なりとも意識しているのでしょうか。

 

(追記1)

ヤフオクドームは2017年に人工芝を張り替え、現在BABIPパークファクターがリーグで最も低い球場になっています。このことは本塁打以外のイベントによる得失点割合をさらに小さくすることに繋がるため、そのまま本塁打による得失点割合の増加に繋がります。さらにソフトバンクにとって都合の良い球場だといえそうです。

 

(追記2)

長打率と得点の分散には負の相関があることが過去の研究で分かっているみたいです。勉強不足でした汗

baseballconcrete.web.fc2.com

 

さらには

同じ平均得点でも長打率が.080高いチームは162試合で約1勝の追加的な勝利を得る、というのが定量的な結論です。

 

とあるように、今回の仮説が正しいにしても、番狂わせが起きにくくなる程度は小さいのかもしれません。

 

得点のばらつきが少ない、本塁打(長打)を中心にした攻撃を行うには、打者がパワーをつける、打撃スタイルを変えるといった方法が一般的に思い浮かぶと思いますが、環境(この場合は球場)からのアプローチによってそれを実現してしまうというのは、とても賢いというか、新しいやり方のように思えます。

「ホームラン」と「番狂わせ」は野球の大きな魅力であるにも関わらず、その2つがトレードオフの関係になっていることは、興味深い野球の構造の1つだと思います。興行としての野球を考えると、面白い野球を見せていくことは重要であるため、両者のバランスが今後どのように変化していくのかは非常に興味があります。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。twitterのフォローや、ご意見をいただけると嬉しいです。

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*1:番狂わせ...「真の能力が劣っているチームが勝利すること」と定義しておきます