ファウルゾーンが減ると得点はどのくらい増えるのか
どんどん狭くなるファウルゾーン
近年、TV中継による放映権収入が減少している背景もあってか、各球団はこぞって、球場に足を運んでもらうような取り組みを行っています。
その取り組みの一つが、フィールドシート等の設置です。グラウンドとスタンドの距離を短くすることにより、ファンの体験を向上させようというものでしょう(座席が増える分、球団の収入も増えますし)。
フィールドシートは基本的にグラウンドにせり出すような形状になっているため、フィールドシートが増えるほど、ファウルゾーンの面積は小さくなります。
ファウルゾーンの狭小化が与える野球への影響ですが、多くの人が考えるものといえば、「ファウルフライの減少」でしょう。ファウルゾーンが狭くなるということは、ファウルフライの減少につながります。
では、具体的にファウルゾーンがどのくらい減ったとき、ファウルフライがどのくらい減り、結果的に得点はどのくらい増えるのでしょうか。
今回は
「ファウルゾーンが1[m^2](1平方メートル)減ったときに、得点は(?)点増える」
の?を求めていく検証です。
調査方法
- 2018年のNPB公式戦のデータから、1試合のファウルフライの数を求める。
- 各球場のファウルゾーンの面積を算出する。
- ファウルゾーンが1m^2減ったときに、1試合当たりのファウルフライがどれだけ減るのかを算出する。
- ファウルフライによる得点期待値の減少を求め、3で求めた数字と掛け合わせる。
なお、データ収集の限界やデータの整合性の観点から、以下の点を前提とします。
- ファウルフライの飛んだ方向等は考慮せず、キャッチャーフライでも外野にとんだフライでも「ファウルフライ」として集計する。
- 交流戦や地方球場での試合は除く。
- 東京ドームとハマスタでの試合は除く(理由は次回説明します)。
調査結果
1、2018年のNPB公式戦のデータから、1試合のファウルフライの数を求める
ファウルフライの数は公式記録等でまとめられているわけではないので、せっせとスクレイピングして求めていきます。(こういうことを調べるたびにいちいちスクレイピングするのは非効率なので早めにちゃんとしたデータベースを作りたいところです…)。
ところで、「ファウルフライが起きた数が多いほど、ファウルフライが起きやすい球場」とすぐ結論づけるのは実は少し危険です。
もし球場Aを本拠地とするチームが、ホームビジター関わらず、ファウルフライを大量に打ち上げているチームだとすると、試合数の多いホーム(球場A)でのみ、ファウルフライが多く記録されてしまいます。
すると、球場Aでファウルフライが多いのは「本拠地としているチーム」が原因なのにも関わらず、「球場Aはファウルフライが出やすい球場」という結論が出されてしまいます。
これが、「ファウルフライが多い」が必ずしも「ファウルフライが出やすい」にならない理由です。
ではどうすればいいのか、という話になったときに必要となるのがパークファクターです。
パークファクターとは球場によって、あるイベントがどれだけ起きやすいか、起きにくいかを数値化したもので、上述したような影響を取り除くことができます。
得点や、HR等のパークファクターは比較的有名ですが、ファウルフライに関してはあまりデータを出しているところはないかと思います。
そこで今回は「ファウルフライパークファクター」を算出してみることにしました。ファウルゾーンが広いイメージのある札幌ドーム等は数値が大きく出そうです。
なお、算出に当たってはパークファクター - Wikipediaを参考にしました。
まずはセリーグ。
例えば東京ドームでは、セリーグの他の球場と比較して、1.24倍ファウルフライが出やすいということです。
最もファウルフライが出やすい球場は神宮、出にくいのはハマスタと甲子園ということが分かります。
次はパリーグ。
最も出やすいのはZOZO、出にくいのは楽天生命パークでした。
本題に戻ります。
集計の結果から、対象とした683試合で、1314個のファウルフライが起きていることが分かりました。
したがって、1試合当たりのファウルフライは1.92個ということになります(東京ドームとハマスタを除くと、1.94個になりました)。
2、各球場のファウルゾーンの面積を算出する。
ファウルゾーンの面積ですが、
こちらのサイトの数値を使用させていただきます。
サイト内のデータですが、球場によってデータの最終更新日に差があり、2018年現在のファウルゾーンの面積と異なる可能性があります。
筆者が調べられる範囲で調査した結果、サイト内のデータと2018年現在で、ファウルゾーンの面積が変わっていると考えられる球場は、
の2つです。こちらの球場は正しいファウルゾーンの面積を算出できないため、今回の計算から除外します。
1試合当たりのファウルフライの数も、こちらの2球場を除いた値を使用することにします。
以下が、主な球場のファウルゾーン面積になります。
ZOZOマリン、札幌ドームが断トツで広いファウルゾーンを持った球場であることが分かります。ZOZOマリンが札幌ドームほど広いファウルゾーンを持っていたことは少々意外でした。
一方、楽天生命パークやヤフオクドームはファウルゾーンが狭く、ZOZOマリンや札幌ドームの3分の2もありません。
前回調べたファウルフライパークファクターと比較すると、ある程度ファウルフライの数とファウルゾーンの面積に相関がありそうな感じがします。
※()がついているのは改修等によりファウルゾーンが狭くなる前の数字です。
3、ファウルゾーンが1[m^2]減ったときに、1試合当たりのファウルフライがどれだけ減るのかを算出する。
今回は「ファウルゾーンの面積」と「ファウルフライの数」の関係性を求めていきたいと思います。
具体的には、目的変数を「ファウルフライの数」、説明変数を「ファウルゾーンの面積」として、回帰分析を行います。
各球場のファウルフライ数は実際に起こったファウルフライの数ではありません。以前書いたように、その数値では、各球場を本拠地とするチーム自体のファウルフライの出やすさに影響されてしまうからです。
そのため、PFを用いて跳ね返り倍率を計算し、「全試合をある球場で開催した場合に見込まれる1試合当たりのファウルフライ数」を算出しています。
(追記)
厳密には、(本拠地という意味での)ホームとビジターの試合数比を求めて補正しなければいけないのですが、面倒くさかったので、ホーム:ビジターの試合数 = 1:1として、そこから補正しました。
その結果得られた(ファウルゾーンの面積、ファウルフライの数)をプロットし、線形回帰を行いました。
相関係数が0.8程度であったため、ファウルグラウンドが狭くなるほど、ファウルフライの数が減るということが、実際のデータから示せたと思います。
そして、ようやくほしい式を出すことができました。
(ファウルフライの数/試合) = 0.000401 × (ファウルグラウンドの面積[m^2]) + 0.806133
つまり、
ファウルゾーンが1[m^2]減るとファウルフライは約0.000401個減るということです。
4、ファウルフライによる得点期待値の減少を求め、3で求めた数字と掛け合わせる。
ファウルグラウンドの面積が1[m^2]減ると、0.000401個ファウルフライが減ることが分かったので、次は得点に換算します。
ファウルフライによる得点期待値の減少分ですが、デルタベースボールリポート1(2017 水曜社)から、ファウルフライ1個当たり、得点期待値は0.266点減少することが分かりました。すなわち、ファウルフライが1個減ると、得点期待値が0.266点上昇することが分かります。
0.000401 × 0.266 ≒ 0.000107 より、
ファウルゾーンが1[m^2]減ると得点は0.000107点増える
ことが分かりました。
単位があれすぎたので、2つほど例を挙げてみます。
今年改修されるZOZOマリンですが、現在ファウルゾーンの面積が3860[m^2]です。
もし、改修によってファウルゾーンの1/3が無くなったと仮定すると、
3860 × (1 / 3) × 0.000107 = 0.138 より、
0.138点程度得点が増えることが想定されます。
また、ファウルゾーンが最も広いZOZOマリンと、最も狭い楽天生命パークでは、ファウルゾーンの面積が
3860 - 2207 = 1653[m^2]
違うため、この面積を得点に換算すると、
1653 × 0.000107 = 0.177 より、
ファウルゾーンの広さのみの影響によって、得点が0.177点程度変動することが想定されます。
おわりに
一応それっぽい結果は出てはいますが、なんせ回帰に使ったデータが10しかないので、2017年度以前のデータも使用すればもっと精度の高い結果が出せそうです。
また、ファウルゾーンに関してですが、ベンチよりも外野方向では球場ごとに(変な表現ですが)個性が出るのに対し、バックネット方向のファウルゾーンはそれほど球場によって差がないように思います。そのため、どのポジションが捕ったファウルフライなのかを区別して集計を行えば、違った結果が得られるのかもしれません。
(完)
(宣伝)
更新時のみ呟くtwitterアカウントがあるので、よければフォローお願いします。
日本プロ野球のデータベースサイトを立ち上げました。wOBAやFIP等のセイバー系指標や、シーズン内での成績推移の可視化をテーマにしています。