野球は「チームスポーツ」なのか
野球はチームスポーツか?
「今更何を言っているのか」という話ですが、もちろん野球はチームスポーツです。試合に出ている9人の他、ベンチには高校野球なら10人前後、プロ野球なら15人前後の選手が控えています。そういった意味では野球はチームスポーツです。
今回は「数」の視点から「野球はチームスポーツなのか」を議論するのではなくて、「選手の組み合わせがもたらす交互作用」という視点から、「野球はチームスポーツなのか」という議論をしたいと思います。
サッカーからみる「交互作用」
野球をより客観的に捉えるために、他のチームスポーツと比較を行います。ここではチームスポーツの代表格であろう、サッカーを例として話を進めます。また、私はサッカーの競技経験が小学校に上がる前の3年ほどしかないため(笑)、プレーヤー目線での議論は到底不可能と考え、一ファンという立場から言及していきます。
(1)連携
サッカーの場合、連携はチームの勝敗を決める上で、かなりのウエイトを占める要素といえるでしょう。例えば、フォワードがディフェンスラインの背後へ飛び出すようなシーンを考えたとき、パスの出し手はフォワードがどんなタイミングで飛び出すのか、どのようなパスを欲しがっているか(位置、軌道)など、フォワードの好みやクセを考えたプレーをする必要があります。他にも、ボールホルダーに対して誰がマークに行くか、センターバック・サイドバック間のスペースのカバーはどうするか、パスを受けるために降りていく動きを見せるフォワードにセンターバックはどこまでついていくか、そのカバーを誰がするのか、等挙げてはキリがないほど、サッカーは連携の重要性が高いように感じます。
この連携の重要性の高さは、サッカーという競技の自由度の高さ、戦術の豊富さなどに起因するものと思われ、戦術やチーム内の決まりごとによって、かなり高レベルな連携が要求されます。
一方で野球の場合、連携が必要な場面はサッカーと比較すると限定されています。さらに野球の場合は、ケースごとの最適な動きが、チームレベルというよりも競技レベルである程度統一されているため、連携の重要性はサッカーと比較すれば限りなく小さなものでしょう。
(2)人選
次にスターティングメンバ―の決まり方について考えます。サッカーの場合、例えばボランチが2枚のフォーメーションを考えたとき(ロシアW杯の日本代表でいう長谷部選手と柴崎選手)、2人の攻守バランスが考慮されやすい傾向にあります。これは攻撃と守備のバランスを適切に保つためであり、片方の選手の性質がもう片方のポジションの選手起用に影響を及ぼしていると言えます。ほかにも、片方のサイドバックが攻撃的であれば、もう片方は守備的な選手(プレー)を配置したり、ツートップの一人が裏抜けを好む選手なら、もう一人はポストプレーが得意な選手を配置するなど、選手起用がお互いの性質を考慮した構造になっています。
一方で野球の場合は、「今日はライトに守備の苦手な選手が入るから、センターには守備の上手い選手を入れよう」といった選手起用が少ないように、あるポジションのスターティングメンバーは個人のパフォーマンスによって決まることが多いため、選手起用にお互いの性質は考慮されにくい(考慮したところであまり価値がない)構造になっています。
このように、他のチームスポーツと比較しても、野球は選手の組み合わせによる交互作用が小さいチームスポーツといえるでしょう。「個人の能力の和」が、「チームの強さを反映する」程度の大きいスポーツであることが予想されます。
野球の構造解明と交互作用
また、セイバーメトリクスの研究によって、攻撃において「余計なことをしない」戦術が得点を最大化することを示すような結果が多数出てきています。
送りバント、盗塁、ヒットエンドラン等、従来はチームが連携して上手く得点を取っていく作戦として重要だと考えられてきましたが、「アウトを簡単に献上することによる得点期待値の損失分」や、「作戦が失敗するリスク」を統計からのアプローチによって求めると、それほど有効な作戦ではないという研究結果が報告されています。
このことは、得点を多くとるために「チームでの連携や作戦の精度を高めていく」ことよりも、「個人の打撃能力を最大限まで伸ばす」ことの重要性がより高まっていることを示しており、「近年の野球構造の解明」という視点からも、「野球は選手の組み合わせがもたらす交互作用が小さい」ことを裏付けるような流れになっています。
まとめ
野球は「競技を行う人数」という視点から見ればもちろん「チームスポーツ」ですが、その組み合わせがもたらす交互作用は小さく、「勝敗を決定する」という視点からは「個人の能力を上げることが、チームの強さに反映されやすい」性質のチームスポーツであるといえそうです。
見かけ上は「チームスポーツ」ですが、「個人競技」としての性質が比較的強いスポーツといえるのではないでしょうか。
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