BBANALY プロ野球データ分析

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「先制点を取りにいく」戦術は有効か【後編】

この記事は「先制点を取りにいく」戦術は有効か【前編】の続きです。これまでの過程を詳しく知りたい方はご覧ください。

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前回までのあらすじ

とある球団の分析スタッフSが、戦術に関する提案を監督Mにもちかけますが、その提案は「先制点を取りにいく戦術をやめる」という野球の常識からすると到底受け入れられないものでした。

その後、スタッフと監督は「先制点」に関する議論を交わす中で、「先制点を取りにいく」ことを定量的に評価することが想像以上に難しいということに気づきます。

そんな中、監督の「先制点を取る前と取った後のパフォーマンスの差に注目する」という発想に目をつけ、スタッフは現実のデータからパフォーマンスの差を観測しようと試みました。

どのような分析結果が出たのでしょうか。

 

 

 

数日後_____________

 

 

 

 

 

スタッフ(以下S):「監督、分析の結果が出ました。」

 

監督(以下M):「おっ、そうか。意外と時間がかかったな。」

 

S:「はい。なかなか考慮すべきことが多くて....。時間がかかってしまいました。すみません。」

 

筆者:「すみません」

 

M:「まあいいだろう、分析結果の報告を頼む。」

 

S:「はい。それでは、今回行った分析について報告します。まずは「守備にもたらす影響」です。

 

 

 

検証-守備編

前回、「先制点を取る前と取った後のパフォーマンスの差」に注目するとしていましたが、守備を考えたとき、打順の巡りや周回効果等の考慮、サンプル数の確保を考えると、この方法での検証は難しいと判断しました。

複雑な方法をとればとるほど、考慮しなければいけない要素が増え、慎重に調査方法の妥当性を検討する必要があるため、ここのバランス調整は非常に難しいです...。

今回は、「ビジター(先攻)チームの先発投手成績(FIP)」を「1回表に味方が先制点を挙げたか否か」によって分類し、その成績差に注目することで、先制点の効果を測定します。すなわち、「先制点をもらった状態で登板する(x-0)」場合と「先制点をもらっていない(0-0)」場合での「FIP」を比較することで、「先制点がもたらした守備への影響」を調べることにします。

 

case 1: 先制点をもらえなかったときの投手のパフォーマンス

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(case 1)ビジター先発投手が先制点をもらえなかったとき

 

case 2: 先制点をもらえたときの投手のパフォーマンス

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(case 2)ビジター先発投手が先制点をもらえたとき

 

※なお、以下登場するデータは特に注意がない限り、2016~2018年のNPB公式戦全試合をもとにしています。

 

 

集計結果は以下のようになりました。

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先制点の有無と先発投手のFIP(定数加算前)

「先制点をもらっていない」投手の方が、「先制点をもらった」投手よりも「成績が優秀」であることが分かります。 成績が上がるどころか、逆に悪化してしまいました。

 

この値に関する懸念(ノイズ)について考えてみたいと思います(「値が出たのを見て、その値が分析者にとってより好ましい結果に近づくような理由を探す行為」自体が既にバイアスな気はしますが、数字遊びなのでお許しください笑)。

 懸念として、「試合を優位に進めている場合、先発投手を引っ張りやすい」ということが考えられます。接戦なら先発投手が少し疲れを見せたところで交代を考えますが、ある程度点差が開いている場合、先発投手の能力が落ちてきていても、引っ張りやすい環境であると予想できます。

そのため、「先発投手の成績」ではなく、「先発投手の打者2巡(=18人)分の成績」で同様の比較を行ってみます。

 

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先制点の有無と打者2巡分の成績

データ収集の都合上、FIPの形で比べるのが困難だったため、打者2巡あたりの被本塁打奪三振、与四死球で比較を行いました。有意水準5%で、本塁打のみ有意に増加していることが分かりました。「先発投手引っ張りやすい環境」を考慮しても尚、「先制点をもらった状態での登板」と「先制点をもらっていない状態での登板」では、先制点をもらっていない状態の方が、投手成績が優秀なことが分かります今回の検証で「先制点が守備に良い影響を与える」ことを示すのは難しそうです

 

いかかですか、監督。」

 

 

M:「なるほど。少なくとも今回の検証で『先制点』が守備に好影響を与えるとはいえなさそうだな。」

 

S:「はい、しかしながら今後も様々な方法で検証を行っていきたいと思います。それでは続いて『打撃にもたらす影響』について報告します。

 

 

 

検証-打撃編

今回は「2~8回で取ることができた得点」を「1回に先制点を挙げたか否か」によって分類し、その成績差に注目することで、先制点の効果を測定します。 9回を含めないのは、9回の攻撃が無いケースが存在するためです。

また打撃の場合、前回も説明したように、先制点自体が「その試合での点数を取る能力」をある程度説明してしまっているため、守備の場合よりも慎重な検証を行う必要があります。その影響を避けるために、先制点が複数得点だった場合を除いて計算することにします。

つまり、「1回に1点取った場合」と「無得点だった場合」の、「2~8回で取ることができた得点」を比較します。

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先制点の有無とその後の得点

初回に得点している方が、少しだけ点数を多く取ることができています。

 

次に、「初回に1点取った場合」と「初回に無得点だった場合」で分類される能力差をさらに小さくするために、「初回にランナー2人が出塁かつ1点取った場合」と「初回にランナー2人が出塁かつ無得点だった場合」で同様の比較を行います。

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先制点の有無とその後の得点(2)

(0点...N=583、1点...N=320)

能力を多少なりとも反映しているであろうランナー数を揃えて計算した場合、先制点をもらっていない方がその後の得点が大きいことが分かります

 

というわけで今回は「『初回に先制点を取ること』は、最終的な得点を大きくするような効果はほとんどない」という結論を出したいと思います。

 

 

 

M:「結果的には、『先制点』が攻撃や守備に好影響を及ぼすことは無いという結論なんだな?」

 

S:「少なくとも、今回の検証方法では確認することができませんでした。しかしながら、ノイズを取り除くために対象を初回の先制点に限定したことや、サンプル数がそこまで多くないことを踏まえると、検証方法に改良の余地は数多くありそうです。他のスタッフとも共有して、フィードバックを得たいと思います。」

 

M:「ああ、引き続きよろしく頼む。」

 

 

 

 

完_________

 

 

まとめ

少なくとも今回の検証では、「先制点を取りにいく」戦術が有効であることを確認することはできませんでした。しかしながら、正直自分自身、今回の検証には詰めの甘さを感じているので、あくまで「先制点の有効性に関する一考察」として受け取っていただければと思います。

この記事をご覧になった方で、よりよい検証方法の提案等があれば、教えていただけると有難いです。

長文お読みいただきありがとうございました。

 

 

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