「状況による打撃アプローチの使い分け」の効果【後編】
この記事はこちらの記事の続きです。
前回の記事で、打撃アプローチをノーマルアプローチ、出塁アプローチ、長打アプローチの3つに分類するとしました。ここで、アプローチの強さの程度を示す指標として、 を導入します。
- 出塁アプローチにおいては、1. の操作の際、長打の割合をノーマルアプローチの 倍にする
- 長打アプローチにおいては、1. の操作の際、長打の割合をノーマルアプローチの 倍にする
となるようなアプローチの程度を、 程度のアプローチと呼ぶことにします。要は、 が大きくなるほど、各打者は状況に合わせて極端なアプローチを取ります。
以下は、 として、各アプローチを取ったときの能力です。出塁アプローチを取ったときには 出塁率UP・長打率DOWN、長打アプローチを取ったときには 出塁率DOWN・長打率UP の傾向にあることが分かるかと思います。
実験内容
今回の検証では、i) 状況に応じて打撃アプローチを使い分けない場合 、ii) 状況に応じて3つの打撃アプローチを使い分ける場合 を比較します。つまり、合計で7通りをシミュレータで検証・比較します。1通りあたりの試合数は50,000試合とします。また、集計する値は、平均得点、標準偏差、1試合当たりの平均残塁数とします。
結果
結果は以下の表の通りです。変動係数とは、得点の標準偏差を平均得点で割ったもので、安定して得点を取る指標として捉えていただければと思います。
各項目ごとにグラフに起こしてみます。
まず、平均得点に関してですが、打撃アプローチの使い分けの程度を大きくするにしたがって( の値を大きくする)、高くなっています。使い分けをしない のときと、 のときとでは、平均得点に約0.13点の差がついており、ざっくりシーズン勝利数に換算すると、1.9勝分くらい得をしています*1。
次に、得点のばらつきを示す変動係数(=標準偏差 / 平均得点)ですが、こちらは使い分けの程度を大きくするにしたがって( の値を大きくする)、小さくなっています。したがって、状況に応じた打撃アプローチを使い分けることにより、得点をより安定してとっていることが分かります。
最後に、1試合当たりの平均残塁数ですが、こちらも使い分けの程度を大きくするにしたがって( の値を大きくする)、小さくなっています。得点圏にランナーがいる際には、長打の割合を減らして単打、四死球など繋ぐアプローチに切り替えていることが、残塁を減らすことに繋がっているものと考えられます。
おまけとして、 のとき(一番極端なケース)の各打者の出塁率と長打率を貼っておきます。これくらい極端なアプローチの使い分けを行うと、全く使い分けしないときと比べて平均得点が約0.13点上がる、ということになります。(こうしてみると、そこまで極端な感じはしない?)
まとめ
上記の結果から、各打者が状況に応じて打撃アプローチを使い分けることは、「チームの平均得点を上げる」、「チームの得点を安定させる」ために一定の効果がありそうです。私は、打順の組み方に関しては相当見当違いなものでない限り、得点に大した影響を及ぼさないという認識でした。しかし今回の結果を受けて、回ってくる状況のバラエティが豊富な打順(2番3番あたり?)では、状況に応じて打撃アプローチを変えられる打者を置いた方が平均得点を引き上げられる可能性があるのではないかと考えています。
今後の課題としては、
- 打者全員ではなく、特定の打順のみに適用させる
- アプローチを変えることでwOBAを少し犠牲にする?モデルを作ってみる
- もう少しリッチで精巧なモデルを作ってみる
- 打撃アプローチの種類を増やす&変えてみる
あたりが考えられるかなと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご意見などはこちらまで↓
*1:10点=1勝で換算しました